私の最近の“あったか”ニュース – 中山 潤子 –

お誕生日会。
それは彼にとって憧れのイベント。
保育園で毎月開催される定番行事である。

当月のお誕生日さまの為に見世物やゲームが行われ、お誕生日さまへのプレゼント、みんなからの注目・祝福、ちやほやされ放題!である。

されど、1月2月3月の早生まれ組の出番は遅い。
そもそも3歳の若々しい彼は、年齢やお誕生日の概念が完全に理解出来ているのかさえもまだ怪しい。

なんかよーわからんけど、みんなからちやほやされて楽しそう。でも自分の順番はちーっともこない。
おたんじょうび、いいなあ。
ぼくもおめでとういわれたい。
はくしゅされたい。

ーーーと、思っていたのかいないのか。

さて、いったんお誕生日は忘れて。
彼のトイレトレーニングの現状について説明しよう。

前述したとおり、早生まれ組の彼はクラスでもかなり遅れをとっていた。
クラスのおともだちは、ほとんどがオムツを卒業している。
毎日替えのオムツを持ってきているのは残り3人ほど。

彼の母は焦っていた。
オムツがとれていないと、おともだちと同じプールに入れないのが園のルールであった。
このままでは一緒に水遊びができない。

おしっこが1人で出来るようになり、いよいよ最終段階である。
なのに、ここへ来て急ブレーキだ。

うんちが出来ない。
出来ないというより確固たる意思を持ってトイレでしない。
彼がうんちをするプレイスは決まっているのだ。

薄暗い寝室の隅の衣装ケース…の上に何故か乗り、オムツで踏ん張る。人知れず踏ん張る。
それが彼のスタイル。

扉は閉め切って部屋には誰も入れない。
それが彼のこだわり。

一度だけ、母はそれを強行突破した事がある。

泣いて嫌がる彼を無理矢理トイレに運び、便座に座らせた。
「うんちでない!」
彼は涙ながらに叫び、便秘になってしまったーーー

〜 どこからともなく流れ出すプロジェクトXのBGM ♪ 〜

それからは試行錯誤の日々だった。

おしっこで一定の効果があった、ご褒美シール作戦が効かない。
ターゲットがもよおす兆候を見逃すまいと必死に観察した。
しかし、必殺「サイレントうんち」の前に何度も敗北。
保育士さんたちとの情報共有、共同作戦。

そんな中、母はターゲットの精神を追いつめる姑息な手段にでたーーー

「トイレでうんちが出来ないなんて、赤ちゃんと同じだねー!ププーッ(笑)カッコ悪ーい!恥ずかしーい!!」と煽りまくる。
実際、度々わざと赤ちゃんと呼び屈辱を味わわせる。
ひたすら精神的にプレッシャーを与えた。
鬼の所業である。

最初こそ赤ちゃん呼びされてもヘラヘラ笑っていた彼だが、徐々に「あかちゃんじゃないもん!!」と怒るようになった。しめしめ。もう一押しじゃ。

同時に、「トイレでうんちが出来るのカッコいい!カッコいいお兄さんはオムツをしていないんだよ?」と、これ見よがしに周りのおともだちを褒める。パパも褒める。
次第に、「カッコいいお兄さんがいい」「うんち、がんばる!」と前向きな言葉が聞けるようになっていった。

それからも幾度となくトイレ失敗を繰り返した後、待望の時がやってきたーーー

「ママーっうんちしたよーーー」の声がトイレから響く。

今だ。
母はギアを、鞭から飴へ切り替えた。

「えええええええ〜すっごおおおおい!!!トイレでうんちできたのおおお!!?」
「おめでとう!これでカッコいいお兄さんだねええ」

母はあらゆる表現を駆使しながら彼を褒め称え、踊り、拍手の雨を降らせた。
母はここが肝だと思った。彼をやる気にさせられるかは今にかかっていると。

拍手・拍手・拍手……「すごい!おめでとう!!」

どうやら母渾身の祝福は伝わったようだ。

彼はスーパーニコニコと、どやぁ顔を交互にしていた。忙しい子である。

だが、しばらくすると1人で静かに寝室の方へ行ってしまった。
不審に思った母が様子を見にいくと、彼はもじもじしながら、でも心底嬉しそうな顔で言った。

「おたんじょうびになれる?」

とっさに意味が分からず、20秒くらいフリーズする母。

「おたんじょうびになれるの?」

はにかみながら、もう一度尋ねられてハッとする母。
あー、おめでとうって拍手したから!?もしかして?

めっちゃ可愛いやーん。何これ……

胸を撃ち抜かれ、うずくまる間抜けな母の姿がそこにあった。

そんなにお誕生日やりたかったんか…
もう、毎日誕生日でいいよ…それでいいよ…ううう…

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